新築やリフォームを考えるとき、浄化槽と下水道のどちらを選ぶか迷う方は多いのではないでしょうか。どちらも生活排水を処理する設備ですが、設置費用・維持費・メンテナンス体制が違います。
この記事では浄化槽管理士歴10年以上の私が、浄化槽と下水道の仕組みやコスト、選び方を解説します。
それぞれの特徴がわかれば、生活スタイルや地域の条件に合った設備を選べるはずです。
次の動画でも浄化槽と下水道の違いを解説しています。あわせてご覧ください。
浄化槽と下水道の仕組み|家ごとに処理するか集めて処理するか

浄化槽と下水道の仕組みと違いは、次のとおりです。
- 浄化槽の仕組みと特徴
- 下水道の仕組みと特徴
- 浄化槽と下水道の違い
浄化槽の仕組みと特徴
浄化槽は、下水道が整備されていない地域で使う汚水処理設備です。微生物の働きで排水をきれいにし、処理水を側溝や川へ流します。
家庭用のサイズは乗用車ほどで、敷地内の地中に埋めて設置します。
2000年以前はトイレの汚水だけを処理する単独処理浄化槽が主流でした。2001年以降は単独処理浄化槽を新しく設置できなくなり、今はトイレの汚水と台所・洗濯・風呂の排水をまとめて処理する合併処理浄化槽が主流です。
個人が所有する設備のため、維持管理は所有者自身が行います。
下水道の仕組みと特徴

下水道は地域の家庭から汚水を集め、下水道管を通して処理施設でまとめてきれいにする仕組みです。整備は自治体の計画にもとづいて進められます。
公共インフラのため、維持管理は自治体が担当します。利用者は下水道使用料を払うだけで、ほかに費用やメンテナンスの手間はかかりません。
浄化槽と下水道の違い
浄化槽と下水道はどちらも生活排水をきれいにしますが、規模に違いがあります。浄化槽は各家庭の敷地内で汚水を処理して流す個別型の設備です。
下水道は地域全体の汚水を終末処理施設でまとめて処理する集中型のしくみです。浄化槽は個人の所有物のため、維持管理は所有者が行います。
下水道は自治体が所有・管理しており、下水道管や処理施設の維持も自治体が担当します。ただし敷地内の配管だけは、下水道でも持ち主が管理します。
全国の利用状況を見ると下水道が約8割を占め、人口の多い都市部で特に普及しています。浄化槽は下水道が届かない地方や山間部で欠かせない設備です。
浄化槽と下水道のどちらを使うかは地域で決まる

浄化槽と下水道のどちらを使うかは住んでいる土地で決まっていて、個人が自由に選ぶことはできません。
- 下水道が整備された地域:下水道につなぐ(多くの自治体で接続が義務)
- 下水道の計画区域外:浄化槽を使う
- 整備予定はあるが数年以上先:当面は浄化槽を使う
浄化槽を使っている家でも、下水道が使えるようになったら下水道へ接続する必要があります。
新築で土地を探している方は、土地を選ぶ前に下水道が使えるかどうか確かめておきましょう。わからないときは、自治体の下水道課に問い合わせるのが確実です。
浄化槽と下水道のコスト比較|初期費用・維持費・総額

浄化槽と下水道のコスト比較は、次のとおりです。
- 初期設置コスト
- 維持管理コスト
- 世帯人数と敷地で変わるトータルコスト
初期設置コスト
浄化槽は自宅の敷地内に設置するため、本体の購入と工事に費用がかかります。大きさにより違いますが、5人槽の設置費用の目安は100〜150万円です。
地域によっては補助金を使えて、費用を大きく抑えられます。補助金の条件や金額は自治体ごとに違うため、事前に確かめましょう。
下水道は設備そのものを買う費用はかかりません。ただし接続するときは、下水道受益者負担金と接続工事費が必要です。
受益者負担金は下水道を作る費用の一部を土地の持ち主が負担するしくみで、土地の広さで決まります。単価は自治体により違い、1㎡あたり300〜500円ほどです。100㎡の土地で1㎡300円なら3万円です。
維持管理コスト
浄化槽の所有者には、法律にもとづいて保守点検・法定検査・清掃を行う義務があります。維持管理費用に加えて、ブロワーやポンプを動かす電気代も必要です。
年間の維持費は浄化槽の大きさや機種で変わりますが、5人槽なら5〜12万円が目安です。故障したときは修理費用が別にかかります。
下水道の利用者は、自治体から請求される下水道使用料だけで他の費用はかかりません。使用料は水道を使った量で決まり、1㎥あたりの単価は200〜500円ほどです。使う量が増えるほど単価も上がります。
費用の目安は、次の表を参考にしてください。
| 浄化槽(5人槽) | 下水道(土地面積100㎡) | |
| 初期コスト | 設置工事費:100〜150万円 | 受益者負担金:3万円〜 接続工事費:30〜80万円 |
| 維持管理コスト(年間) | 保守点検:15,000〜30,000円 法定検査:6,000円 清掃:20,000〜50,000円 電気代:10,000〜30,000円 合計:51,000〜116,000円 | 下水道使用料 1人世帯:15,708円 4人世帯:50,094円 |
※下水道使用料は新潟市の料金表で計算(1人世帯は2か月13.3㎥、4人世帯は2か月53㎥)
世帯人数と敷地で変わるトータルコスト
浄化槽と下水道のどちらが安いかは、世帯人数と敷地の広さで変わります。
浄化槽の維持費は1人世帯でも5人世帯でもほぼ変わりません。下水道使用料は水道の使用量で決まるため、人数が増えるほど高くなります。下水道の受益者負担金は、敷地が広いほど高くなります。
新潟市の料金をもとに、2つの家庭で比べました。
| 2人世帯・50坪(165㎡) | 5人世帯・100坪(331㎡) | |
| 浄化槽設置費 | 100〜150万円 | 100〜150万円 |
| 下水道受益者負担金 | 49,590円 | 99,180円 |
| 下水道接続工事費 | 30〜50万円 | 50〜80万円 |
| 浄化槽維持管理費(年間) | 51,000〜116,000円 | 51,000〜116,000円 |
| 下水道使用料(年間) | 22,968円 | 66,198円 |
※下水道使用料は1人あたり2か月約13.3㎥として計算(2人世帯27㎥、5人世帯67㎥)
浄化槽は設置費用が高く感じますが、補助金を使えば負担を大きく減らせます。人数が多い家庭ほど、1人あたりの負担は浄化槽の方が小さくなります。
浄化槽と下水道の機能の違い|処理能力・手間・災害への強さ

浄化槽と下水道の機能の違いは、次のとおりです。
- 処理能力と環境への影響
- 点検・メンテナンスの手間
- 緊急時・災害時の対応力
処理能力と環境への影響
浄化槽は、水の汚れを示すBODを90%以上取り除く性能があります。窒素やリンも取り除ける高度処理型もありますが、価格が高く家庭用ではあまり普及していません。
下水道もBOD除去率は90%以上で、施設によっては99%以上の処理もできます。地域全体の汚水をまとめて処理するため高度な処理技術が使われ、窒素やリンも取り除けます。
処理能力では、下水道の方が優れているといえるでしょう。
ただし下水道は動かすのに多くのエネルギーを使います。家が集まる都市部は下水道、家が離れている地方は浄化槽と使い分けると、環境への負担を小さくできます。
点検・メンテナンスの手間
浄化槽は個人の敷地内にあるため、維持管理は所有者が行います。保守点検・法定検査・清掃を定期的に行う義務があります。
下水道は敷地外の設備を自治体が管理するため、個人でメンテナンスする必要はありません。
浄化槽が故障したときの修理費用は個人の負担です。下水道の修理費用は自治体が負担します。
緊急時・災害時の対応力
浄化槽は下水道に比べて災害に強い設備です。家ごとに独立していて配管も短いため、被害が小さくすみ早く復旧できます。
下水道は地域全体に配管が広がっているため、地震などの災害では被害が広い範囲に及ぶのが弱点です。壊れた場所が多いと、復旧にも時間がかかります。
地震や水害のあとに浄化槽を使ってよいか迷うときは、環境省や自治体のチェックシートを参考にしましょう。
浄化槽のメリット・デメリット|災害に強いが手間がかかる

浄化槽のメリット・デメリットは、次のとおりです。
- 浄化槽のメリット
- 浄化槽のデメリット
浄化槽のメリット
浄化槽は、下水道が整備されていない地方や山間部でも設置できる設備です。設置工事はおよそ1週間で終わり、工事のあとすぐに使い始められます。
維持管理費は年間でほぼ一定のため、水道を多く使っても増えません。家族が多い家庭ほどお得になりやすいです。
地震などの災害時も被害は小さくすみ、壊れても修理すれば早く復旧できます。異臭・流れの悪さ・異音・水漏れなど故障のサインがはっきり出るため、原因を早く見つけやすい点もメリットです。
浄化槽のデメリット
少人数の家庭では、下水道に比べて初期費用や維持費の負担が大きくなります。メンテナンスを個人で頼む必要があり、手間もかかります。
停電するとブロワーが止まり、浄化槽の処理能力が落ちるので注意が必要です。
ブロワーやポンプは5〜10年ほどで交換時期を迎えます。浄化槽本体の寿命は20〜30年が目安です。修理費用の目安は、次のとおりです。
| 修理内容 | 費用の目安 |
| ブロワー修理 | 約1〜5万円 |
| ブロワー交換 | 約2〜10万円 |
| 排水ポンプ交換 | 約8〜20万円 |
| 漏水修理 | 約10〜30万円 |
| 浄化槽本体の修理 | 約30〜50万円 |
定期的な点検や清掃を続けていれば、多くの故障は防げます。修理費用は業者によって差があるため、複数の業者から見積もりを取りましょう。
マンホールが庭や玄関まわりの見た目に影響する点も、気になる方がいるかもしれません。メーカーごとに色や大きさが違うので、設置前に確かめておきましょう。
下水道のメリット・デメリット|手間はないが使用量で料金が増える

下水道のメリット・デメリットは、次のとおりです。
- 下水道のメリット
- 下水道のデメリット
下水道のメリット
下水道のメリットは、自治体が管理するので自分でメンテナンスする必要がない点です。高度な処理ができて、環境にやさしい点も挙げられます。
使用料を払うだけで、ほかに費用や手間はかかりません。水道の使用量が少ない家庭では費用を抑えられます。
下水道のデメリット
下水道は主に都市部に整備されているため、地方や山間部では使えない地域が多くあります。地域に管を通す工事には何年もかかり、整備が済むまで待つしかありません。
水道の使用量が多い家庭では、下水道使用料の負担が大きくなりがちです。
広い範囲に配管があるため、地震などの災害では多くの場所が同時に壊れることがあります。修理に時間がかかり、復旧が遅れる点もデメリットです。
浄化槽から下水道への切り替え|接続工事は30〜80万円が目安

浄化槽から下水道への切り替え方法と費用は、次のとおりです。
- 切り替えの手順
- 工事の内容
- 切り替え時にかかる費用
- 補助金の活用
- 切り替えると変わること
切り替えの手順
浄化槽を使っている家でも、下水道が使えるようになったら下水道へ接続する必要があります。切り替えの手順は、次のとおりです。
- 市町村から供用開始の通知が届く
- 下水道受益者確認の書類が届くので、内容を確認して必要に応じて提出する
- 受益者負担金の払い方を一括払いか分割払いから選ぶ
- 市町村指定の工事業者に見積もりを頼み、工事内容を確認して契約する
- 工事期間は3〜10日で、トイレが使えないのは約1日
- 市町村が工事内容を検査する
- 公共下水道使用開始届を出して、使用開始
工事の内容
下水道への切り替え工事には、市町村が行う部分と個人が行う部分があります。
- 本管工事(市町村):家の前の道路に下水道管を通す
- 公共桝の設置(市町村):家からの排水を集めて本管につなぐ桝を設置する
- 宅内工事(個人):家の排水口から公共桝まで排水管をつなぐ
宅内工事は、自分で指定工事業者を選んで頼みます。
切り替え時にかかる費用
下水道が使えるようになると、敷地の広さに応じた受益者負担金を市町村に払います。下水道に接続していなくても、負担金の支払いは必要です。
宅内の接続工事の費用は下水道管の位置や敷地の広さで変わり、目安は30〜80万円です。配管の距離が長い場合や、アスファルトを掘る必要がある場合は100万円以上かかることもあります。
浄化槽を撤去する場合は、汲み取りと撤去の費用が別に10〜20万円ほどかかります。
補助金の活用
接続工事費は自己負担ですが、市町村によっては補助制度や無利子の貸付制度があります。
補助金は供用開始から3年以内の申請が必要な場合が多いため、早めの確認が大切です。
制度の内容や申請方法は市町村ごとに違うので、事前にくわしく調べておきましょう。
切り替えると変わること
下水道に切り替えると、次の3つが変わります。
- ブロワーやポンプが止まり、電気代がかからなくなる
- 保守点検・清掃・法定検査の義務と費用がなくなる
- メンテナンス不足や故障による臭いが出にくくなる
まとめ|家族の人数や水の使い方で合う設備を選ぼう

浄化槽と下水道のどちらを使うかは、まず住んでいる地域の下水道の整備状況で決まります。選べる場合は、家族の人数や水道の使用量で向き不向きが変わります。
浄化槽は下水道のない地域でも設置でき、災害にも強い設備です。維持費は人数が増えても変わらないため、家族が多い家庭ほどお得になります。ただし保守点検・清掃・法定検査の手間と費用がかかります。
下水道は公共のインフラで、個人のメンテナンス負担がない点が大きなメリットです。家族が少ない場合や、メンテナンスの手間を省きたい方に向いています。
費用面では、浄化槽は設置費用がかかるものの補助金で負担を減らせます。下水道は、水道を多く使う家庭ほど使用料が高くなります。
両方の特徴を理解して、家庭に合った設備を選びましょう。