浄化槽の点検や清掃は、地域の生活を支える重要な業務です。現場では予期しないトラブルや対応に悩む場面が日常的に発生します。
この記事では浄化槽管理士である私が現場で経験した困った事例を10個紹介します。浄化槽を利用する方はもちろん、これから業界で働く方や現職の方にも共感いただける内容です。
浄化槽点検・清掃で困ること10選

- マンホールの上に車があり作業できない
- 点検・清掃時に水の使用ができない
- ブロワーの電源が切られている
- 大型犬がいて作業場所に近づけない
- トイレに異物が流されている
- 浄化槽まわりに草や物が多く作業できない
- 腐食や膨張でマンホールが開かない
- 周囲に花壇や植木鉢があり作業に支障が出る
- 道幅が狭く通行止めが必要になる
- 発生したトラブルが管理会社の責任にされる
マンホールの上に車があり作業できない
訪問時間を事前に電話でお伝えしていても、マンホールの上に車が停められたままのことがあります。インターホンを押しても応答がなく、電話にも出ないケースも少なくありません。
管理士や清掃員は当日の作業を計画して現場へ向かうため、このような状況ではスケジュールが大きく乱れ、業務に支障をきたします。
予定を忘れる方もいるため、点検日が近づいてから連絡すると効果的です。例えば、当日の午前に電話し、午後に訪問するなど短い間隔での連絡が有効です。
点検・清掃時に水の使用ができない
点検や清掃の際に水道が使えない現場では、作業がスムーズに進みません。水道が止まっていると、槽内の詰まりや汚れを除去できず、清掃をしたくてもできない状態に陥ります。そのため、水道は常に使用できるよう整えておく必要があります。
地下水や井戸水を使っている現場では、水圧が弱いため洗浄が不十分になりがちです。浄化槽の近くには立水栓や散水栓を設置し、洗浄に必要な水を確保できるようにしましょう。
立水栓は庭や玄関先などにある柱状の蛇口で、散水栓は地面に埋まっているタイプの蛇口です。どちらも建築時に設置されていることが多いですが、後からの設置や交換も可能です。

ブロワーの電源が切られている

ブロワーの「音がうるさい」という理由で、使用者が無断で電源を抜いてしまうケースがあります。
ブロワーの電源が切れると、槽内の微生物が死滅し、浄化機能が完全に失われます。処理水の質が悪化し、悪臭の原因にもなります。ブロワーの電源は絶対に切らないようにしてください。
使用者の中には、ブロワーの重要性を知らず、「そんなに大切なものとは思わなかった」と話す方もいます。悪意があるわけではなく、単に認識がない場合がほとんどです。
浄化槽を使用する際は、ブロワーの役割や重要性を丁寧に伝えることが大切です。
大型犬がいて作業場所に近づけない
浄化槽の近くで大型犬がウロウロと歩き回っている現場があります。飼い主が不在の場合は、安全を確保できないため、作業日を改める判断も必要です。
「うちの子は大丈夫」と言われることもありますが、安易に信用するのは危険です。犬が苦手な方にとっては、姿を見るだけで強い恐怖を感じます。
安全に作業を進めるには、事前に犬をリードにつないでもらうよう依頼することが大切です。現場でのトラブルを防ぐためにも、確認と配慮を徹底しましょう。
トイレに異物が流されている
浄化槽マンホールを開けると、家庭で何が流されているかがわかります。流してはいけない代表例は以下のとおりです。
- 生理用品や紙おむつなどの衛生用品
- キッチンペーパーや食用油
- 大量の洗剤や食べカス
- 子どものおもちゃ
誤った使用をすると、浄化槽の処理機能に悪影響を与えます。お客様に説明をすると「流してはいけなかったことを知らなかった」と驚かれることが多く、正しい知識が浸透していないのが現状です。
管理士や清掃員が継続して注意喚起を行うことには、社会的な意義があります。
浄化槽まわりに草や物が多く作業できない

浄化槽のまわりが草に覆われていたり、荷物や資材が積まれたりして足の踏み場がない現場があります。点検前に草刈りや片付けから始める必要があり、特に夏場は体力を消耗します。
お客様に「いつもやってもらって悪いね」と言われることもありますが、本音では「事前にやっておいてよ」と思っている作業員も少なくありません。浄化槽まわりは、日頃から整理整頓を心がけ、作業しやすい環境を整えておきましょう。
ブロワーの周囲にホコリが溜まると、フィルターの詰まりや高温による故障の原因になります。清潔で風通しの良い状態を保つと、浄化槽の安定稼働につながります。
腐食や膨張でマンホールが開かない
浄化槽のマンホール、とくに鉄製のものは劣化すると固着や腐食が進み、開けるのに苦労します。車両が通行する場所では、重みによってマンホールが沈み、さらに開けにくくなります。
劣化が進んだマンホールは安全面でも問題があるため、消耗品と考え、定期的に交換しましょう。外観が著しく傷んでいたり、ヒビや穴が空いている場合は交換のサインです。
夏の暑い時期には、樹脂製のマンホールが熱で膨張し、開けにくくなります。そのため、水で冷やす、ハンマーで軽く叩くなどの対応が必要です。

わたしの担当現場で「マンホールのナット部分から虫が出る」との理由で、すべてのマンホールにコーキング処理を施している方がいました。すべてのマンホールにコーキングが施されていたため、剥がす作業は地獄でした。
管理者様には状況を説明し、劣化によってサビや隙間が生じていたことから、交換対応となりました。
浄化槽周囲に花壇や植木鉢があり作業に支障が出る
浄化槽のまわりを花で囲っているご家庭は多くあります。花が千切れたり、花壇や花瓶を誤って割ってしまうおそれがあるため、点検や清掃の際には注意が必要です。
清掃時にはホースが反動で動くため、思わぬ接触が起きることもあります。
浄化槽まわりには、少しスペースを空けたうえでガーデニングを楽しんでいただけると、安全に作業ができ助かります。
道幅が狭く通行止めが必要になる
駐車場が1台分しかなく、道幅も狭いため、片側交互通行ができず通行止めで作業を行う場合があります。清掃中は、車両が通るたびにホースを外して移動せざるを得ず、作業効率が下がります。
ちょっとした行き違いが大きなクレームにつながるため、事前の段取りが重要です。近隣住民への事前説明や車両誘導が必要になるケースもあります。
発生したトラブルが管理会社の責任にされる
「臭いがする」「詰まった」「機械や設備が故障した」といった異常が起きると、「管理会社の対応が悪い」と責められることがあります。お客様の気持ちは理解できますが、これは誤解です。
たとえば、病院に毎日通っていても病気が治るわけではありません。車も定期点検をしていても壊れるときは壊れます。浄化槽も同じで、点検や清掃をしていても異常が起きます。
重要なのは、異常を早期に発見し、深刻な問題に発展する前に対応することです。そのためには、お客様への丁寧な説明と作業記録が最大の防御策になります。
まとめ|現場の困りごとは事前確認とお客様への伝え方が大切

浄化槽の点検や清掃は、目に見えない部分を扱うからこそ、専門的な知識と経験が求められます。
今回紹介した困りごとは、あくまで一例です。実際の現場では、予想を超えるさまざまな課題に直面することも少なくありません。
重要なのは、事前の情報確認と、住人や関係者への丁寧な説明です。現場でのトラブルを減らし、作業を円滑に進めるためには、こうした「あるある」を業界全体で共有していくことが大切だと感じています。
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