浄化槽は下水道が整備されていない地域で必要な設備です。維持管理は法律で義務付けられており、定期的なメンテナンスが必要です。
この記事では、浄化槽を利用している方や導入を考えている方に向けて、浄化槽の基礎知識を解説します。
- 浄化槽とは?
- 浄化槽維持管理について
- 浄化槽清掃とは?
- ブロワーの役割って?
- 法定検査の重要性について
以下の動画でも浄化槽の仕組みや維持管理についてわかりやすく解説しています。
浄化槽の基礎知識|重要性と役割を理解しよう
浄化槽の基礎知識を以下で解説します。
- 浄化槽は各家庭に設置する汚水処理設備
- 浄化槽の役割
- 水をキレイにする理由
浄化槽は各家庭に設置する汚水処理設備
浄化槽は下水道設備が未整備の地域や整備予定のない地域で活躍する汚水処理設備です。
生活排水を未処理のまま放流すると、河川や海の生態系、環境に深刻な影響を及ぼします。
浄化槽の普及率は約10%と低く、十分に理解されていません。維持するためには保守点検や清掃、法定検査が重要です。
以下の動画では、実際の浄化槽を紹介しています。
浄化槽の役割や特徴
浄化槽の役割や特徴は以下のとおりです。
- 浄化槽は汚水を浄化する設備
- 合併処理浄化槽と単独処理浄化槽の2種類がある
- 保守点検、清掃、法定検査が必要
- 法定検査は環境保全に貢献する
家庭だけでなく病院や学校、工場などでも使用され、生活排水の処理に必要不可欠です。
水をキレイにする理由
川や海の汚染は魚の不漁や悪臭、安全な飲み水の不足を引き起こし、居住環境を悪化させます。汚水を浄化し再利用することは、現在および未来の生活の質を向上させるために不可欠です。
水の浄化と自然への循環は環境保護に必要で、持続可能な社会を実現する基盤です。
合併処理浄化槽と単独処理浄化槽の違い
合併処理浄化槽と単独処理浄化槽の違いは、以下のとおりです。
- 浄化槽には2種類ある
- トイレのみ処理できる単独処理(みなし)浄化槽
- 単独処理浄化槽の問題と解決すべき課題
浄化槽は2種類ある
浄化槽には合併処理浄化槽と単独処理浄化槽の2種類があります。
合併処理浄化槽は家庭から排出されるすべての生活排水を処理できます。
生活排水の汚れはBODで測定され、人が1日に排出する汚れは約40gです。
BOD(生物化学的酸素要求量)
(Biochemical Oxygen Demand)は、水質汚染の程度を測定する指標です。
水中の有機物を微生物が分解する際に消費される酸素の量を測定し、水の汚染度を評価します。この値が高いほど水中の有機物質の量が多く、汚染度が高いと判断されます。
BODの測定は特定の温度(20℃)で水標本を5日間保持し、その間に消費される溶存酸素の量を測定します。
排水源 | BOD排出量(g) |
し尿 | 13 |
洗濯、お風呂 | 9 |
台所、洗面台 | 18 |
浄化槽は微生物の働きで生活排水中の有機物を分解・処理し、環境への影響を最小限に抑えます。
合併処理浄化槽はBOD除去率が90%以上で、40gの汚れを4gまで減らす処理能力があります。
トイレのみ処理できる単独処理(みなし)浄化槽
単独処理浄化槽はトイレの排水のみを処理します。洗濯水や風呂、台所、洗面台からの排水は未処理のまま側溝や河川に放流されます。
単独処理浄化槽のBOD除去率は65%以上で、合併処理浄化槽の90%以上の除去率に比べて処理能力が低いです。
排水源 | BOD排出量(g) |
し尿 | 5 |
洗濯、お風呂 | 9 |
台所、洗面台 | 18 |
単独処理浄化槽はトイレの排水のみ処理し、他の約32gの汚れは未処理で側溝や河川に放流されます。
家庭で使用される汚水の約80%が処理されないまま放流されています。単独処理浄化槽の使用は環境への負荷が大きいです。
環境保護と生活環境の維持を目指すには、全ての生活排水を処理できる下水道や合併処理浄化槽の使用が望ましいです。
単独処理浄化槽の問題と解決すべき課題
平成13年以降、単独処理浄化槽の新規設置は禁止され、新たに浄化槽を設置する際は合併処理浄化槽の設置が必須になりました。
- 単独処理浄化槽の設置は禁止されている
- 合併処理浄化槽や下水道への接続が推奨されている
- 合併処理浄化槽への切り替え補助金制度がある
単独処理浄化槽を使用している家庭には合併処理浄化槽への移行や下水道への接続をおすすめしています。
移行には費用がかかるため難しいという現状ですが、多くの地域で浄化槽の設置や更新に対して補助金が提供されています。
自分の住んでいる地域で「浄化槽補助金」と検索しましょう。地域によっては5人槽の設置に対して数十万円の補助金が提供されます。
浄化槽と汲み取り式トイレの違いと共通点
汲み取り式トイレと浄化槽は異なりますが、共通している点としてバキュームカーを使用した汲み取り作業や清掃が必要です。
汲み取り式トイレと浄化槽は別物!
都市部では下水道の普及によりバキュームカーを見る機会が減りましたが、地方では依然として重要な役割を果たしています。
都市部でもアウトドアイベントや建設現場で仮設トイレが必要な場合があり、バキュームカーの需要は続きます。
浄化槽と下水道のニオイ問題の解決法
下水道や浄化槽を使用しているとニオイが発生します。
流しているものがものだからです。
下水道は浄化槽に比べてニオイの発生が少ないですが、完全に無臭ではありません。
浄化槽はマンホールのひびや欠け、使用状況、経年劣化によりニオイが発生しやすい傾向があります。
メンテナンスによって浄化槽からのニオイを抑えることが可能です。
保守点検・清掃・法定検査の重要性
保守点検・清掃・法定検査の重要性は以下のとおりです。
- 浄化槽所有者の重要な義務
- 浄化槽管理士の役割
浄化槽所有者の重要な義務
浄化槽を所有している方は、以下の3つの重要な義務があります。
- 保守点検
- 国家資格を持つ「浄化槽管理士」が実施。浄化槽の動作状況や異常の有無を確認し、必要に応じて調整を行う。
- 浄化槽清掃
- 汚泥の引き抜きや詰まり防止、ニオイの抑制が目的です。処理機能の維持にも効果があります。
- 法定検査
- 指定検査員が浄化槽の機能や管理状態、水質が適切な基準を満たしているかを検査を実施。
以下の動画では3つの義務についてわかりやすく説明しています。
保守点検の内容は以下のとおりです。
- 害虫の駆除
- 消毒剤の補充
- 水質の検査
- 浄化槽内部の漏水及び各装置の動作確認
- ポンプやブロワーの動作確認
- フィルターの清掃
維持管理を怠ると浄化槽は汚物蓄積タンクとなり、環境への負荷は大きいです。
維持管理を続けることで浄化槽は持続的に機能し、環境への悪影響を最小限に抑えられます。
浄化槽管理士の役割
浄化槽管理士は日々の点検を通じて水質改善に重要な役割です。型式に応じた点検を実施し、必要に応じて調整や修理を行います。
専門知識と経験を活かし、浄化槽が効率的に機能するよう努めています。
人間の健康と同様に、浄化槽も早期に問題を発見し対処することで修理費用を最小限に抑えられます。
メンテナンスにより消毒剤の不足や、ブロワーの故障などの問題を早期に発見できます。
維持管理が環境保護に貢献する理由
点検や清掃の際に何か異常が見つかったとき、お客様から「点検しているのになぜ異常が出るのか?」といった疑問の声をいただきます。
なんで点検も、清掃もしているのに異常が起きるの?
お気持ちわかります。
他のことに例えるとわかりやすいと思うので例文を2つ用意しました。
- 例①:車検での例
- 車検を受けた車でも、数日後に予期せぬ問題が生じることはあります。
- 例②:病院での例
- 毎日病院に通っていても、病気や怪我を防ぐことはできません。通院により病気や怪我の早期発見が可能になります。
浄化槽は点検や清掃、法定検査を実施していても異常は発生します。点検を行うことで問題を早期に発見し、費用や被害を最小限に抑えられます。
保守点検の頻度は地域で異なる
浄化槽法第10条により、浄化槽保守点検は年3回(4か月に1回)実施する義務があります。
年間3回の点検では異常対応や消毒剤の管理が十分に行えないため、年間4回以上の点検が推奨されています。
点検頻度の上限は定められていません。地域や浄化槽の種類に応じて、毎日点検や月1回の点検を実施するケースもあります。
汚泥引き抜き作業の重要性と効果
浄化槽清掃を行わないと起きる問題を以下に紹介します。
- 浄化槽の処理機能が低下する
- ニオイや汚れが流出する
- 装置の故障や近隣への迷惑が生じる
- 法律違反や漏水問題が発生する
浄化槽法では年に1回以上の清掃が必須ですが、浄化槽の型式によっては多くの清掃が必要なものもあります。
単独処理浄化槽の一種である全ばっき型は容量が小さいため、半年に1回以上の清掃が必要です。
下記の動画では、実際の全ばっき型浄化槽の様子を確認できます。
浄化槽管理において「堆積汚泥」の量は槽内の汚泥やスカムの蓄積を示し、清掃の必要時期を判断する指標です。
浄化槽の型式によっては堆積汚泥の許容量が定められていて、基準を超えると清掃が必要になります。
清掃を怠ると浄化槽の機能が低下しニオイが発生するだけでなく、槽内の装置に損傷を与えます。
汚泥蓄積が引き起こすガスのリスク
槽内での汚泥蓄積は、メタンや亜硝酸性窒素などの温室効果ガスを発生させます。
保守点検や清掃を怠るとガスが蓄積し、ろ材を押し上げ、槽の破損につながります。
蓄積された汚泥の重量により、ろ材を保持するネットが耐え切れず、ろ材が外れネットが破れます。この問題は保守点検や清掃を通じて予防可能です。
ガス抜きを実施しないと槽内の装置が壊れる!
下の動画では実際にガス抜き作業を行っています。
ろ材の性能低下は浄化槽の処理能力を落とし、修理が必要な場合費用は10万円を超えます。メンテナンスによって浄化槽の寿命を延ばせます。
清掃によって槽内を目視確認できる
浄化槽清掃は汚泥を取り除くだけでなく、通常の点検では確認できない部分を直接視認する機会です。問題が発生する前に異常を発見し、適切な対策ができます。
使用頻度が高く汚れが蓄積しやすい場合、年に1回以上の清掃が必要です。浄化機能を維持するためには、汚れ具合に応じて清掃回数を増やすことが重要です。
浄化槽清掃に必要な知識と技術
浄化槽には、1槽目の沈殿分離槽や2槽目のばっ気槽など、異なる機能を持つ槽が存在します。
沈殿分離槽では、固形物と液体が分離され、底部には汚泥や食べ残しなどの重い物質が、上部にはガスや油脂類などの軽い「スカム」が溜まります。
下の動画ではスカムについて解説しています。
浄化槽清掃のベストなタイミングは?
浄化槽では汚泥やスカムの蓄積を一年を目安に設定し、この期間を超えると汚泥が外部に流出するリスクが増加するため清掃が必要です。
最近の合併処理浄化槽はコンパクトに設計されているため、使用状況によっては一年未満で槽が汚泥で満たされることもよくあります。
環境のためにも汚れの状態を確認し、清掃頻度の適宜調整が重要です。
汚れの量に合わせて清掃回数を増やそう!
清掃作業には「バキュームカー(衛生車)」が使用されます。一見すると単純そうに見える作業ですが、実際には専門知識や技術が必要です。
ホースを突っ込むだけで吸引できるんでしょ?簡単そうだね。
バキュームカーの操作は国家資格がなくても可能ですが、「浄化槽清掃技術者」という国家資格があるように、浄化槽の清掃には専門的な知識と技術が求められます。
経験が浅い人と熟練の技術者では、清掃の品質に大きな違いが生じます。
下記の動画では浄化槽清掃の様子をご覧いただけます。
信頼できる浄化槽管理業者を選ぶポイント
以下の表は、良い会社の特徴や選び方の基準を示しています。
特徴 | 詳細 |
お客様対応 | 問い合わせや要望に迅速に対応し、信頼と満足度がある。 |
スタッフの礼儀 | 礼儀正しく、細やかな対応でお客様との信頼関係を築いている。 |
定着率の高さ | 高い定着率でサービスの品質を保ち、組織の成長をサポートしている。 |
料金設定 | 安価な会社が必ずしも最良の選択とは限らない。低料金は対応の遅れや接客態度の悪さにつながる場合がある。 |
従業員の定着率 | 従業員の入れ替わりが激しい会社は避けましょう。高い定着率は品質の良さと安心感を提供する重要な指標。 |
信頼できる業者と契約しましょう。浄化槽は大切な資産です。
維持管理費用の相場と内訳
浄化槽の清掃費用は、地域や浄化槽の容量によって異なります。最も小さい5人槽では、清掃費用の目安は2万円前後です。
業者や地域によっても差があるため、依頼する前に費用の確認をしましょう。
私の家は3人家族なのになんで7人槽なんだろう?
5人槽の浄化槽における保守点検と清掃の年間費用は約4万円です。365日で割ると、一日あたりの汚水処理費用は約109円になります。
浄化槽維持費用 | 5人槽 |
年間費用(保守点検、清掃代) | 約4万円 |
日割り費用 | 約109円 |
法定検査 | 約5千円 |
電気料金(ブロワーやポンプ) | 約1万円 |
加えて、法定検査の料金やブロワーの電気代などの追加経費も考慮しましょう。浄化槽や下水道の排水処理にかかる費用は避けられない経費です。
微生物の役割とブロワーの重要性
ブロワーには以下の重要な役割があります。
- 微生物へ酸素を供給する
- 微生物の活動促進に必須
- 故障するとニオイの原因になる
- 故障すると水質が悪化する
- 返送管と移送管へ空気を供給する
汚水処理では有機物を微生物が分解します。分解過程で微生物は増殖し、汚泥は比重が重いため底に沈みます。
沈んだ汚泥は「汚泥返送管」を通じて最初の槽へ返送され、汚泥が外部に漏れ出るのを防いでいます。
微生物には、酸素を必要とする「好気性微生物」と、酸素を必要としない「嫌気性微生物」の二種類があります。
好気性微生物は酸素が必要であり、供給を担うのが「ブロワー」です。ブロワーが故障して酸素供給が停止すると、好気性微生物は生存できなくなり、浄化処理が停止します。
水質が悪化し、不快なニオイが発生します。
ブロワーが停止すると散気管や吹き出し口に汚れが詰まり、空気が供給されなくなります。
詳細は以下の動画で説明しています。
嫌気性微生物は、第一槽と第二槽で有機物を分解し、二酸化炭素やメタンなどのガスを生成します。
好気性微生物は有機物を二酸化炭素や水、窒素に分解し、処理過程の最終段階で活躍します。
嫌気性微生物と好気性微生物は、それぞれ異なる条件下で有機物の分解を行います。
法定検査の意義と重要性
お客様から多い質問の一つは、「7条検査」と「11条検査」とは何ですか?というもの。
- 7条検査
- 7条検査は浄化槽の使用開始後、「3〜5か月以内」に一度だけ行う検査です。検査では適切に設置されているか、水の流れが正常であるかを検査します。
- 11条検査
- 年1回必ず実施する検査です。浄化槽が機能しているか、管理業者が点検や清掃を適切に行えているかを確認します。
以下の3つを覚えていてください。
- 1年に3回以上の保守点検
- 1年に1回以上の浄化槽清掃
- 1年に1回の都道府県の法定検査
法定検査を受けるメリット
保守点検や浄化槽清掃、法定検査の3点が組み合わさって、浄化槽維持管理が成立します。
点検や検査がなぜ何回もあるの?
皆さんの気持ちは十分理解できます。私も自宅の浄化槽の定期的な点検や清掃は自分で行いますが、法定検査は専門家に委託しています。
例えば、車のメンテナンスを自分でできる人でも、車検はプロに依頼するのと同様に、浄化槽の維持管理においても法定検査は必要です。
法定検査を受けないことは、環境保全に対する責任を放棄することになります。
「法定検査は不要」と考える方は、浄化槽の維持管理についての理解が不足しています。管理者として環境保全に努めましょう。
法定検査は2重取りだ!受ける意味あるの?
お客様からよく寄せられる疑問に「二重取りじゃないの?」や「法定検査を受ける意味は何?」などがあります。
法定検査では、検査員が第三者の視点で浄化槽の適切な機能や管理状況を確認します。
水質基準を満たしているか、清掃や保守点検が行われているか検査するものです。
保守点検や清掃とは異なる役割を果たし、浄化槽の適切な維持管理には欠かせません。法定検査で適正と評価されることは重要です。
維持管理で快適な生活環境を守ろう
浄化槽管理士や浄化槽清掃員、法定検査員などの専門家による啓蒙活動は、環境意識の向上に寄与しています。
水の浄化と環境保護の重要性を理解し、積極的に関わる人が増えることで、生活の質が向上します。
維持管理は快適な生活と水環境の保全に貢献します。浄化槽に関する基本的な知識は、多くの方に理解してもらいたい重要な内容です。
コミュニティを活用しよう
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浄化槽関連の資格を目指す方や現場で働く方は、ぜひご参加ください。
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